「 妖怪 ハヤクネロ」
「ハヤクゥ〜ネロ、ハヤクゥ〜 ネロォ〜 」
少し前、我が家の近所には「 妖怪 ハヤクネロ」が現れた。
直接見た者はないが、その姿は全身真っ黒で暗闇では目が赤く光るという。
ラーメンを作る屋台の車に乗って夜9時頃に現れる。ひずんだ笛の音が遠くから近づいてきたと思うと、夜、寝ない子どもの家の横に止める。そして、“寸胴”と呼ばれる大きなナベに捕まえた子どもを放り込む。
寸胴に入らない大人は捕まえない。小さくて、柔らかい子どもが好物。
「 妖怪 ハヤクネロ」に捕まらない方法はただ一つ。布団の上で、掛け布団(タオルケット可)をかけて、目をつぶる事だけ。
お母さん達も助けてあげられない、とても恐ろしい妖怪なのだ。
(写真はイメージ)
そう。
もうおわかりだと思うが「 妖怪 ハヤクネロ」の正体は屋台のラーメン屋さん。 「ハヤクゥ〜 ネロ〜 」の声は “チャルメラ” のメロディー。
そんな善良な夜の小売店のおかげで、私は3人の子ども達の寝かしつけで手を焼いたことがない。
「あぁ〜大変、そろそろ『ハヤクネロ』が来ちゃうかも…。」
と深刻そうに言うと、中学校の修学旅行の夜の見回りのように、子ども達が勝手に布団に飛び込んで行く。
そして、しっかりお布団に入ってさえくれれば、少し室内を暗くしてあとは静かに絵本を読んであげる。枕元のぬいぐるみでお人形ごっこをしながらおしゃべりしてもいい。(我が家の子供達が好きだったのは。子どもの名前を主人公にして、その場で適当に絵本のようにお話しするのアドリブ絵本。「○○ちゃんはアイスが大好きです。」「うきゃきゃきゃきゃ!』という感じです^ ^)
そして、「ハヤクゥ〜 ネロ〜 」が近くを通過する時は私も子ども達の隣りで寝たふり。そんなこんなを15分もしているともうすっかり安心して子ども達は眠りの森へ。
電気が普及した現代、特に都内では、動物的な本能で感じる得体の知れない恐怖の体験というものが少ない気がする。
TVで突然流れるホラー映画の恐ろしいCMの映像や、ゲームのグロテスクなキャラクターの方がよっぽど有害だと思うが、そういったものは子ども達は無意識に慣れてしまいがちだ。しかし、そんな中途半端な感覚ばかりを味わい続けていると論理的思考にばかり偏って、本能的な感覚が薄れるからか、年頃になった時、妙に怖いモノ知らずな態度をとるようになる。
であるなら、感性が豊かなこの時期にトラウマにならないくらいの、空想から生まれた恐怖と出会う経験はかなり重要になってくる気がする。
そう考えると、「悪い子はいねがー」「泣ぐコはいねがー」と奇声を発しながら、怠け者を探して暴れるという秋田県の “ なまはげ ” はとても理にかなったが良い文化だと思う。